暇だったのでツラツラと
ラウンドしていると同伴者のギアが気になる人もいらっしゃるようですね(^_^;)
私は発売直後の最新ドライバーなら
「もう使ってるんだぁ」
と思うくらいです。口に出すことはないですが。
他人のギアが気になる方がこんな事を仰っていました。
「これは軟鉄鍛造だから打感が柔らかい。それはステン鋳造だから打感が硬い。」
これってホント?(^_^;)
同じグリップ、シャフトで、同じ形状のヘッドだったら差は感じないんじゃないかなぁ?
打感というのがどんなものを指すのか曖昧なのですが、柔らかく感じるとか硬く感じるということから
・荷重を受けたときの「たわみやすさ」
・衝撃を受けたときの「振動しやすさ」
を感じたものだと仮定しておきます。
つまり
打感が柔らかい=「たわみやすく」かつ「振動しにくい」と仮定します。
では、ヘッドに使用される軟鉄とステンについて調べてみましょう。
軟鉄と呼ばれているものはS25Cが多いようです。
ステンは一般的な18-8ステンレス鋼のSUS304が多いらしいです。
ん?S25Cって軟鋼じゃん(^_^;)
うちの会社じゃ「なまくら(鈍)」なんて呼んでますが(笑)
鋼ってついたら硬そうなイメージがするから鉄って呼んでるのかな?
あと、ステン鋳造ならSCSのはず。
SUS304相当のステン鋳鋼はSCS13ですね。
と脱線はほどほどに、材料物性値をネットで拾うと
比重 / ヤング率 / 降伏点 / 引張強さ / 伸び / 硬さ
S25C(焼きならし) :7.87 / 205GPa / 265MPa / 440MPa / 25% / 140(HBW)
SCS13:7.98 / 197GPa / 185MPa / 440MPa / 30% / 180(HBW)
(SCS13のヤング率が見つからなかったのでSUS304のヤング率を載せていますが差はないはず)
確かにステンの方が28%ほどブリネル硬さが高いですね~。
でもこの硬さって表面の「傷つきやすさ」や「摩耗しやすさ」に関わるもので、
「たわみやすさ」や「振動しやすさ」には関係しないんですよね(^_^;)
(硬さと降伏点&引張り強さには相関がありますが完全な比例関係ではありません)
「たわみやすさ」に関係するものが何かというと
「形状」、「ヤング率」
同じ形状であれば、ヤング率が高いほど変形しにくいです。
「振動しやすさは」
「形状」、「質量密度」、「ヤング率」
同じ形状であれば、質量密度が小さく、ヤング率が高いほど振動数が大きくなります。
(本当はポアソン比も関係するのですが、金属のポアソン比は大体0.3なので割愛)
S25CとSCS13の物性値を見てみると、SCS13の方が「たわみやすく」、「振動しにくい」ということになります。
「打感が柔らかい」というのが「たわみやすく」、「振動しにくい」という特性だとした仮定が正しければ、SCS13の方が打感が柔らかい?(^_^;)
と言ってもですねぇ、S25CとSCS13の質量密度とヤング率の差は工業的には、ほぼ同じと見做すでしょうね。
(うちの会社の振動(NVH)解析の担当者は軟鋼もハイテンもステンも鋼材はなんでも鉄と言ってるくらい(笑))
それでも「打感」というものに差があるのは事実なんでしょう。
とすれば差が生じる原因は「形状」では?
形状が違えば「たわみやすさ」も「振動しやすさ」も大きく異なります。
(興味があれば断面2次モーメントでもググってください)
という事でシャフト、グリップが同一で、打感が違うとすれば「ヘッドの形状が違う」から
だと考えます。
軟鉄鍛造は柔らかいからライ角調整が出来るけど、ステン鋳造は硬いから出来ないじゃないか!
と思われるかもしれません。
材料物性からするとSCS13の方が「降伏点」は小さく「伸び」は大きいので曲げやすそうです。
ステン鋳造のライ角調整が出来ない理由は知らないのですが、「割れる」からでしょうか?
鋳造という加工方法は内部欠陥「す(鬆)」が生じやすく、「す」を起点に亀裂が進展することがあります。
昔に比べると鋳造の技術も向上していて「す」が出来にくくなってるって話もありますがねぇ。
(もしかすると鋳鉄のイメージで割れやすいと思ってるのかも?鋳鉄にはほぼ「伸び」がないですから)
ちなみにステンでも鍛造は可能ですよ。
流し台なんかステンをプレス加工してるくらいだし。
では何故材質が違うのか?
所望の形状に対し、
どのような加工方法なら制作可能?(鋳造、プレス、鍛造、切削など)
加工方法に対しどの材質なら制作可能?(湯流れ性、伸び、絞り、被削性など)
追加処理の要否?(熱処理、表面処理など)
Assy.の要否?(接着、溶接など)
それらの中でどの組み合わせが一番リーズナブル?
てな感じで決めてるはずです。
ちなみにステンの素材単価はS25Cの3倍~4倍(^_^;)
アンダーカットになってるポケットキャビティなんかは1ピースなら鋳造じゃなきゃ作れないでしょうねぇ。
あ、新人の頃、アンダーカットになってる図面を書いて
「こんなもんプレスで出来るわけないじゃろ!」
と生産技術のおじさんに怒られたのを思い出してしまった(笑)
ついでに、
自動車評論家と称する方達の文章の中に
「ハイテン材を使用することにより車体剛性が向上している」
なんてのがあったら、大ウソなのでその人の言うことは信じ切ってはいけません(笑)
ハイテン材ってのは引張強さが大きな(大抵、降伏点も高くなる)鋼材ですが、ヤング率は一般的な鋼と変わらないので車体剛性のような弾性域には関係しません。
降伏点を超えるような応力が生じる場合は変形が大きいということなので、車体剛性が高いはずはないですからねぇ。